4月の課題図書は『山椒魚』井伏鱒二(新潮文庫)でした。参加者12名、見学2名、レポートのみ参加4名の、計18名の方にご参加いただきました。
教科書で読んだことがある方もたくさんいらっしゃった『山椒魚』ですが、晩年の改稿含め、作者はどんな思いでこの作品を作り上げたのでしょう。
以下、参加者の感想まとめです。
・高校生の教科書にあって、最後の一文の「今でもべつにお前のことをおこってはいないんだ」が印象的で覚えていた。改めて読んで印象に残った点は「行動を起こさないことのリスク」。停滞は心地好いし楽だが、取り返しのつかないことになるという戒めを感じた。
・読んでいて今ひとつよく分からない。この作品を通して、いったい何を伝えようとしているのか。そのことが頭から離れなかった。特に「へんろう宿」は困った。
・読みやすかったし、翻訳にくらべ日本人が書いたものは読む行為自体が楽しく感じられる。逆に観る行為は外国のものの方が楽しく感じる。
・「山椒魚」はそれほどよくできた作品とは思わない。ユーモアを感じさせる文体と、山椒魚という生物の存在感がよく合っているとは思うが、それ以上ではない。寓話的で教材として使いやすいのだろうが、それは作品の質とは関係のない話。
・「俺にも相当な考えがあるんだ」と言いつつ何もできず、岩穴から川を眺めて小魚をあざ笑う。自分が惨めで不幸な状況であればあるほど、他者を非難したがるのは、山椒魚も人間も変わりないのかなと思った。
・『山椒魚』に登場する生物や、小鳥や、鷲や、がんなどの描き方が本当にうまい。『山椒魚』以外は、文学青年崩れのだらしない「私」が語るという形で、このような小説はこの時代を中心に多く書かれており、井伏鱒二の作品が特に秀でている気はしない。
・僕の若いころは漫画家のつげ義春(1937~)がよく読まれ、神格化する向きもあった。つげが井伏鱒二を好きだと聞いていた気がするが、実際に読んで、ここまで作品の感触が近いとは思わなかった。読書の楽しみが増えた。
・短編集だが実に良かった。粒ぞろいというか、全部が輝いていたとは思えないが、全編に魅力があるように感じた。言いたいことが文章の表情から良くうかがえるような、そんな明るさであったので、読んでいて苦がなかった。
・高校で『山椒魚』を読んで頭の中が疑問符でいっぱいになったが、10年以上経って改めて読んで、なんて味わい深くて不思議で語りがいのある作品なんだと驚いた。文体はシンプルで骨太なのに、一言で言い表せない複雑で曖昧なマーブル色の感情を上手く描いているのが不思議。
・寝落ちて最後まで見届けてないが、宇宙船で1人冷凍睡眠から覚めてしまった主人公が葛藤の末にもう1人のカプセルを開けて道連れにする映画があった。あと100年2人きり。あの結末はどうなったのだろう。結末がわからないまま強烈な印象が残る映画のように、山椒魚も最後がなかったら興味深いインパクトで残るのに。
・困惑、狼狽から諦めの気持ち。そして同じ境遇の者への八つ当たり。この短い物語の間で、心の移ろいがしっかりと描かれており、逸脱な作品だと思った。我々は、本に爽快な読後感ばかりを求めてはいけない。
・井伏鱒二は『山椒魚』のようなシュールな作品を発表する一方、『黒い雨』のような現実的な作品も発表しており、作家としては確かな実力を持っている。「ああ、寒いほど独りぼっちだ!」というのはこの作品の有名なセリフであるが、人が大勢いるにもかかわらず孤独感を感じる現代人の心境に響くと思われる。
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二次会は海鮮のお店に行き、美味しい浜焼きをいただきました。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。
当会は4月でオープン開催二周年を迎えました。はじめは6人からスタートした会でしたが、今ではこんなにたくさんの方に参加していただける会へと成長することが出来たことをありがたく思います。いつも支えてくださる皆さまに心より感謝いたします。
今後も変わらず北九州で文学にゆっくりひたる場を作っていけたらと思いますので、3年目の木曜読書会もよろしくお願いいたします。
【次回以降の開催予定】
★木曜読書会★19:00~21:00
・5/30(木)『トニオ・クレーゲル/ヴェニスに死す』トーマス・マン(新潮文庫)
・6/27(木)『高熱隧道』吉村昭(新潮文庫)
・7/25(木)『ジュリアス・シーザー』シェイクスピア(新潮文庫)
★サタデー長編読書会★
・6/30(土)13:00~15:00『細雪(上)(中)(下)』谷崎潤一郎(新潮文庫)
★紹介形式の読書会(名称未定)★
・7/7(日)13:00~15:00
※紹介形式の読書会を開催予定です。詳細は追って告知いたします。
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