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H31年2月『檸檬』梶井基次郎

2月28日(木)、第22回木曜読書会を開催しました。課題図書は梶井基次郎『檸檬』(角川文庫)でした。参加者13名、見学者2名、レポートのみ参加3名の、過去最高の計18名の方にご参加いただきました。当時から文豪たちに人気のあった梶井基次郎ですが、その人気は現代でも衰えていないようです。

以下、各課題の簡単なまとめです。

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◆課題2◆本書の中から作品を一つ選び、その作品について自由に感想を書いてみてください。選ぶ理由は何でも構いません。

檸檬』

・檸檬は全果物の中で一番爆発しそう。キュートな手榴弾。パイナップルやブドウも爆発しそうだが、スパークリング感ではレモンが頭一つ抜けている

・太宰病歴がある私には「檸檬」の文体リズムが大好物で思わず音読した。

・芥川龍之介の『蜜柑』と比べて、梶井の『檸檬』は個人の世界から一歩も出ない。みすぼらしいものに美を見出し個人的な偏愛を表現した点で、後世の情報/消費社会やポストモダンという時代を先取りしていたのかも。

『冬の蠅』

・蠅をこれほど細かくユーモラスに描けるこの描写力はすごい。

・自分も体調不良で心が弱る経験があるのでとても生々しく感じた。最後死んでしまった蝿と自分を重ねる「私」の心のつらさははかりしれない。

『城のある町にて』

・レンブラントやコンスタブルと印象派のスケッチのような趣がある。特に人物描写が生き生きとして瑞々しくて「こういう人いるなー」と思わせる。

美しい風景やすてきな瞬間を書き留めたエッセイみたい。

『闇の絵巻』

・光や明るさを無意識的に良しとして志向している自分に気づかされた。闇の中にこそ安らぎや平和、優しさ、調和が存在していることを納得できた。

実家は街灯の数が少なく、帰るたびに夜の黒さを思い知る。我々の細胞には、恐ろしくも懐かしいあの闇が浸込んでいる。

桜の樹の下には』

・冒頭の有名な一節に、やっぱりそうかと妙に納得した。自分は桜の花が怖いので、植物の持つ得体のしれない恐ろしさを誰かと共有できたことが嬉しかった。

・幻惑的な美しさの桜と、生命の成れの果てである屍体という対照的なふたつを掛け合わせた思いつきがとても好き。

『冬の日』

・特別なことをするわけではなく、見ているもの、思い出すもの、考えたことが作品を構成する。どの作品もそうだが言葉が手品のように見事で、一行一行にびりびりと感電する。

『交尾』

・猫や河鹿の描写が本当に上手い。ただ、こういった動物の行動を人間に当てはめて命の美しさや尊さに繋げるのはちょっと気持ち悪い。

のんきな患者』

・この作品だけ毛色が違う。ライターズハイがすぎるというか。本当はこんな文体の人なんだろうか。

Kの昇天』

・ 月夜に自分の影を見つめる。月光の妖しさと自分の影に潜む何かを軸に、短い小説の中に濃密な世界が描かれているところが好き。

 

◆課題3◆『檸檬』で主人公が丸善に檸檬を置いてきたように、あなたが秘密の企みのためにどこかに何かを置いてくるとしたら、どこに何を置いてきて、どのような結果を想像しますか。

 

・雨の日の早朝、曇ったガラスに好きな本の一節を書く。文字が滲んで崩れるまでに誰かの目に留まっても、そのまま消えても、どちらにせよ満足。

・ミカンを図書館のテーブルの上に置く。騒ぐガキんちょがいるとそれめがけて催眠ガスが発せられる。

・友人の車に乗るたびに気づかれないように100円玉を助手席のサイドポケットにいれる。2000円くらいたまったころに気づいてびっくりさせたい。

・登山道のあるような山で、道からは見えない樹木に南部鉄にまろやかな音のする風鈴を掛けておく。登山客や野鳥が不思議に思う。

・誕生日の友達(ビール好き)の家に忍び込み、CMのように冷蔵庫の中を全てビールにする。友達の驚く顔が見たい。

・図書館に行き、50巻ぐらいある長編に1巻付け加える。

 

◆課題4◆梶井基次郎の作品には五感に訴えかけてくるシーンが多くあります。本書の中であなたの印象に残った箇所を1つ選び、カラーの絵で自由に表現してください。

 

◆課題5◆感想

 

・死がすぐそばにあることを連想させる話が多く、読みながら人のもろさや人生の儚さのようなものを感じた。普段ふれないような本だったが、想像以上に読みやすくお話の中に入っていけた。

どの文章を覗き見ても世の中のことは書いてなくて、あくまで心が漏らした苦悩や迷い、諦めが描かれていたように感じて時代性を感じなかった。もとじろさんと友達だったら、宴席の端で話すくらいの接触を半年に一度くらいやってみたい。

4D映画のような臨場感あふれる描写に引き込まれた。作者が体験したありふれた日常の瞬間を移した美しいプレパラートを見ているよう。物語性に乏しく記憶には残らないが、理屈ぬきに心に残った。

・学生のころ読んだきりだったが、加齢のせいか今の方がキラキラしているように見えた。ハードボイルドなようで少女趣味というか、小さくて可愛いもの、綺麗なものを好ましく思うような部分がうかがえて、同時代の男性作家と比べても稀有だと思った。

・檸檬忌に、大坂にある梶井基次郎の墓を詣でたことがある。規則正しく塗られた現実の殻から滲み出る不条理を察知したとき、おそらく人は檸檬を一顆、そっと己が精神の袂に忍ばせるのだと思う。

・学生時代に梶井を愛読した記憶があるが、世代がかけ離れたせいもあるのか今ではさほど共感できない。梶井がもし『檸檬』を書いていなかったら、それ以外の作品だけで、現在の盛名があったのだろうか?

・誰かを救うためではなく、作者がただ自らを救う為に物語を書き続けたのかと思うと強いシンパシーと羨望を感じる。斬新な感覚にスキルが追いつかなかったようにも見えるが、その未熟さや焦りが魅力になっている、作家としては真の意味で未完の完成者だと思った。

 

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終了後の打ち上げには10名の方にご参加いただき、各班でどんな話をしたかなどで盛り上がりました。ご参加いただきました皆様、今月もありがとうございました。

 

 

 さて、次回は3月28日(木)、課題図書はジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』(ハヤカワ文庫)です。SF作品は当会でも一度しか取り上げたことがないため、いつもとが少し毛色の異なる会になる予感がします。

 また、平日夜の参加が難しいという方向けに、3/30(木)13時~15時、同じ内容で「サタデー読書会」を開催します。仕事や遠方住まいで参加できなかった方にご参加いただけると嬉しいです。

 次回もたくさんの皆様のご参加をお待ちしております。