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H31年1月『書記バートルビー/漂流船』メルヴィル

遅くなりましたが、皆さま新年あけましておめでとうございます。今年も素敵な参加者の皆様とたくさんのことについて語り合っていけたらと思いますので、何卒当会をよろしくお願い致します。

さて、1月31日(木)、第21回木曜読書会を開催しました。課題図書はメルヴィル『書記バートルビー/漂流船』(光文社古典新訳文庫)でした。参加者13名、レポートのみ参加1名の、計14名の方にご参加いただきました。

新年一発目がメルヴィルということで気合が入ったという方もいらっしゃったかもしれませんが、初参加の方や、平日にも関わらず新幹線で博多から来て下さった方もいらっしゃり、いつも以上に盛り上がった楽しい会となりました。

以下、各課題の簡単なまとめです。

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◆課題2◆「あなたはその理由をご自分でおわかりにならないのですか」(『書記バートルビー』p63)とありますが、「その理由」とはなんだったと思いますか。

 

・仕事の負担が大きすぎて視力や集中力が衰えてしまったから。

・朝の突然の訪問を受け暮らし方を見られ侮辱されたから。

・筆写の仕事は十分したので、もう興味もやる気もなくなったから。

・バートルビーにとっては世界は拒絶するもので、拒絶せずにいられる主人公のほうが異端に見えたから。

・無意味だから、全てはむなしいことだから。
・あなたはすでにぼく(=バートルビー)が仕事をしないことを受け入れているから。
・「理由を考える」という行為をしたくないから。
・人に物事を尋ねる前にまずご自身で考えてみられては?

・人間の社会、人間の活動に加わることにうんざりしてしまったから。

 

◆課題3◆バートルビーに、「それはした方がいいと思います」と言わせる質問を考え、台詞形式で書いてみてください。


・「バートルビー、事務所の中に休憩用のベッドを置こうと思うが、どうかね?」

「私は君をこのままこの事務所に置いておく方がいいと思うが、君はどうだね?」

「なんにもしないをしてくれないか」

・「これからタイムマシンに乗って、二人とも生まれてこないよう小細工しに行こう」

「バートルビー、きみはそれをしない方がいいという主張をしたいのですか?」
「ええい、もう面倒くさい。勝手にしてくれ」


◆課題4◆あなたがアザラシ猟船・漂流船それぞれの船長だったら、物語の中でどんな行動をとりますか。


【デラーノ】

・助ける準備をして戻るから、とボートを降りず船に乗らず、船の下から声をかける。

・臆病なので、まず最初に自分ではなく船員をボートに載せて救援に行かせる。そして漂着船に乗り込んでからはすぐ疑って逃げ出す。

・警戒心が強すぎてすぐに一触即発な状況を生み出してしまい、生きて帰れない。

・違和感を感じつつも食糧と水を供給して別れる。後日寄港した町でこんな奇妙な船にあったと話すかもしれない。

・ベニートから質問攻めにあったあたりで理由をつけて脱出を図る。

・旗を掲げていない時点で海賊船である可能性が否定できないので、まずは武装して乗り込み制圧する。事情を聴くのはそのあとでよい。


【ベニート】

・黒人全員に足枷をはめておく。

・反乱がおきた時点で言いなりになるのを拒んで殺される。または、主の思し召しのままにと状況を受け入れアメイジンググレイスを歌う(笑)
・とにかく精いっぱい情けない船長を演じ、気力と体力を取り戻すことに専念し、バボウを油断させ見張りの手が緩むのをひたすら待つ。

・仲間の亡骸を見せられながら飼い殺される生活が、漂流船という半永久的な空間で続くことに耐えられず、酔って海に飛び込みそう。

・「ぼく、そうしない方がいいのですが」で押し通す。

・黒人たちを説得して海賊になる


◆課題5◆感想


【書記バートルビー】

・ミステリーよりも哲学書よりも「わからない」感覚が面白く何度も読み返したが、バートルビーの救い方は私にはわからないまま。

・最後までバートルビーと他の登場人物との間の「壁」が崩れないところが印象的。この作品を読むと自分の中に「バートルビー」が生まれて居座ってしまうような、不思議な読後感の話だった。
・ハンストを貫くバートルビーの姿には、自作が世に理解されないメルヴィルの、それでも生活のために書き続けなければならない憤懣と葛藤が透けて見えないでもない。

・バートルビーがおかしいのか私たちの信じる世界がおかしいのか。自分の常識を揺るがされるようで背筋が寒くなった。
・バートルビーが全ての仕事を拒んだ時点で、私の中で彼に対する気持ちはゼロになった。全ての人を理解するのは不可能なので、さっさと関わりを断つのが最善だと思う。

・バートルビーは不条理と言うかままならない世の中にうんざりしたのかも。自分ならバートルビーが近くにいたら罪悪感を振り切って逃げる。

・最初は例の台詞を言うたびに笑えるが、完全に職務を放棄しはじめた辺りから怖くなる。彼がどうしてこうなってしまったのか誰にもわからないまま物語は唐突に終わる。この違和感と不完全燃焼感をどうしたらいいのだろう。

・内容は面白いが読みものとしては苦手。シュールというジャンルは異常(狂気)にツッコミを入れるのではなく、それに執拗なほど乗っかる正常(正気)が生む暴走なのかなと思った。

・「しない方がいい」というのは疑念や予感から生まれる言葉。ウォール街は当時の現代社会の象徴であり、そこには神聖なこと、人間の魂に関わることは存在しない。だからバートルビーは否定で語ることしかできなかったのではないか。

【漂流船】

・目の前に見えるものだけが真実ではなく、正しいわけではない。常に楽天的でいることが世の中を生き抜く秘訣なのかなと感じた。
・ゴシック風小説→海洋活劇譚→ミステリという三段階の変貌が鮮やか。現実のデラーノ船長の雇い主である貿易商、ジョン・ジェイコブ・アスターは『バートルビー』にも名前が登場していて小ネタが面白い。 
・話の構成はわかりやすいが少し長すぎるように思う。主人公であるデラーノの察しが悪すぎてもどかしい。
・デラーノの楽観主義的なノリ、差別的表現にびっくり。19世紀に根強く残っていた差別意識をこういう形で書くことで批判しているのだろうがどうなのだろう。

・ライトミステリーのように読んだ。船が好きなだけに、船の逃げ場のない感、波に揺らされ続ける不穏な空気感、囲まれた環境下でのコミュニティ感に臨場感があった。
  ・デラーノ船長が好きになれなかった。心底悪気がないのでやっかいだしやるせない。黒人の反乱が成功したらよかったのに。

・普通に読めばデラーノ/読者のバイアスを利用したミステリ風味の作品。視点を変えて黒人の側から見れば、彼らは自由のため、故郷に帰るために戦っただけで、至極まっとうな理由。

・最後のバボウは戦いに敗れても誇りを失っていない戦士のよう。一方ベニートは心に暗い影を負ったまま死ぬ。誰が被害者で誰が加害者なのか。メルヴィルを読まないまま死ななくてよかった。

【両作品について】

・予想をこえて面白かった。バートルビーの頑なさは「私」の寛容さに対して、漂流船の惨状は「デラーノ」の善意に対して、それぞれ試練を与えるために生み出されたような気さえする。

・どちらも語りの虚構性に自覚的な作品。読者は語り手を通してしか作中の人物に触れられないという構造をうまく使っており、19世紀の作品と思えなかった。

両作品とも、作者の意図しているところが物語の表面からはわかりにくい。価値観が大きく変化する時代の人々のアンビヴァレンツのようなものを感じる。
・両作品とも登場人物が少なく、時間と空間が限定された物語なので舞台劇を見ているようだった。心理描写が巧みで、自分の判断基準も同じだと赤面しながら読んだ。

深い作品に感銘を受けた。くどい位の丁寧な描写、古典の素晴らしさに、自分だけだったら途中で投げていたと思うので、読書会で読めて良かった。


◆課題6◆疑問点

・バートルビーはなぜ、あの建物にはこだわったのか?

・『バートルビー』最後の「ああ、人間よ!」の意味

・聖書からの引用が多いが、メルヴィルはキリスト教をどのようにとらえていたのか?
 ・文庫本なのに1000円は高くないか。

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  終了後の打ち上げでは、漂流船にちなんで美味しい魚料理をいただきました。ご参加くださった皆様、今回も楽しい時間をありがとうございました。


  

  さて、次回は2月28日(木)、課題図書は梶井基次郎『檸檬』(角川文庫)です。「檸檬・交尾・城のある町にて・Kの昇天・冬の日・桜の樹の下には・冬の蠅」の七作品は必ずお読みください。

  世間のLemonブームに乗ったわけではないですが、梶井基次郎のファンは多いので次回も楽しみです。たくさんの皆様のご参加をお待ちしております。